まんがなるほど物語

 第二の「薬害エイズ」?
      脳に埋めこまれた不治の病


(前編・6月3日更新)-----------------------------(後編を読む)

        □これは「薬害ヤコブ病」のお話だよ□

       
お姉さん
ふ〜ん、ひどい話ねぇ・・・。(ため息)

ナルタン
ナ〜ルタンっと! こんにちは、お姉さん!

お姉さん
あらナルタン、いらっしゃい。

ナルタン
あれえ、お姉さん、新聞なんか読んでる〜、珍しいねぇ。

お姉さん
失礼ね! お姉さんだって、新聞くらい読むわ!

ナルタン
ずいぶん熱心に読んでいたようだけれど、何が書いてあっ
たの?

お姉さん
ねぇナルタン、この「薬害ヤコブ病」だけど、ひどい話ね
ぇ!

ナルタン
ああ、今、裁判が東京と滋賀県の大津で進められているね


お姉さん
私、もっと詳しく知りたいわ。

ナルタン
じゃあ、薬害ヤコブ病のこと、調べに行ってみようか!

お姉さん
うん、行く行く!

ナルタン
それ〜!

お姉さん・ナルタン
ナルナルタンタン へそのゴマ!

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ ワープ ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

お姉さん
ナルタン、ここはどこ?

ナルタン
不幸にも、被害にあってしまった人のお家だよ。ベッドに
寝ているのが患者さん。

お姉さん
ご家族の方がお世話をしているのね。
病院に入院しているのかと思ったけど・・・。

ナルタン
病院だと、治療をしないと保険点数がとれないから、追い
出されてしまうんだ・・・。

お姉さん
えっ? どういうこと?

ナルタン
それについてはあとで・・・。
この人は3ヶ月前、それまで健康だったのに突然おかしな
症状が出てきたんだ。

お姉さん
どんな?

ナルタン
例えば「もの忘れ」。
よく行く近所の郵便局へ行こうとして、急に途中で行き先
が分からなくなってパニック状態になってしまったのが最
初の症状、という女性がいる。
それからというもの、日に日に悪くなり、一週間後には家
の中の方向すら分からなくなってしまったんだ・・・。

お姉さん
ええっ!? そんなに急に?

ナルタン
進行がめちゃめちゃ速いのがこの病気の特徴だからね・・
・。
それから幻覚症状が起こったり、毎晩こわい夢を見てうな
されたりもするんだ。これは本人にとっても家族にとって
もかなりつらいよね・・・。

お姉さん
想像しただけでぞっとするわ・・・・。
ほかには?

ナルタン
運動障害や視覚異常、次に言語障害だね。
つまりスムーズに歩けなくなったり、目が見えずらくなっ
たり、言葉が話しにくくなったりするんだ。
それが急速にひどくなって、あっと言う間に痴呆が進み、
寝たきりになって・・・。

おじさん(野沢 那智)
そう、その上けいれんの発作も起きるし、最終的には自分
で身体を動かしたり、話すこともできなくなる「無動性無
言」って呼ばれる状態になるんだ。
そしてほとんどの人が一年前後で死んでしまうという、と
っても恐い病気なんだ。

お姉さん
まぁ、ひどい・・・。動くこともしゃべることもできない
なんて、本人も家族もつらいわね・・・。生き地獄だわ!
治療法はないの?

ナルタン
残念ながら・・・。
治すこともできないし、症状の進行を遅らせる方法も見つ
かっていないんだ・・・。
つまり、致死率100%の、不治の病なんだ。
ふつうは100万人に一人、しかも50〜70代の人がか
かりやすい、とても珍しい病気なんだけどね・・・。

お姉さん
それが、この人たちは頭の手術でうつされてしまったわけ
ね?
ところでナルタン、脳の手術で使われた、問題のライオ・
・・なんだっけ?

ナルタン
「ライオデュラ」。硬膜の移植に使われたんだ。

お姉さん
「こうまく」って・・・なに?

ナルタン
じゃちょっと、行ってみよっか! ナ〜ルタン!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お姉さん
ここはどこ?

ナルタン
ここは人間の頭の中。正確に言うと、頭蓋骨(ずがいこつ
)の内側さ。
ぼくたちが今立っているのがその「硬膜」の上。薄くて白
い膜さ。
硬膜の下にも膜が2枚あって、さらにその下に大脳がある
んだ。

お姉さん
なるほど・・・。それじゃ、脳の手術をするときは、どう
しても切らないといけないわけね・・・。

ナルタン
そう。そして頭を切る手術をしたあと、ここをふさぐため
に人間の死体からとった硬膜で作った「ヒト乾燥硬膜」の
「ライオデュラ」という製品が使われたんだ。
ちょうど、洋服の破れ目にツギを当てるようにね。

お姉さん
その「ライオデュラ」が病気のもとになったわけね。
ところで、病気の原因って何なの?
ばい菌? ウイルス? それとも・・・?

ナルタン
じゃ、それを調べに行こう。 ナ〜ルタン!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お姉さん
あら、ここは・・・?

ナルタン
1996年のイギリス。たくさんの牛が感染して日本でも話題
になった「狂牛病」、覚えている?

お姉さん
あ、そういえば、腰がくだけたみたいになった牛の映像が
繰り返し放送されていたわね!
そしてまた最近も騒がれているじゃない?
牛肉を食べて感染する場合もあるんでしょ? こわいわ!

ナルタン
そう。でも、牛からうつるのは「新型ヤコブ病」。
ライオデュラで感染したものとは型がちがうんだ。
誤解しないでね・・・。

お姉さん
でも、共通点はあるんでしょう?

ナルタン
ああ。どれも「感染性プリオンたんぱく」と呼ばれる特殊
な「たんぱく質」なんだ。
これにいったん感染すると、かなりの年月が過ぎたあと脳
の中で増殖して、組織がスポンジ状に空洞化してスカスカ
になってしまうんだ・・・・。

お姉さん
そうなの・・・。手術してから何年も経ったあと急にそん
なふうになるなんて、なんだか信じられないわね・・・。
ところでナルタン、周りの人にうつる心配は?

ナルタン
それはぜったいにない! さわってもキスしても大丈夫さ
。「移植」以外には感染などありえないんだ!!!

お姉さん
ナ、ナルタン、なにをそんなに怒っているの?
私、何か悪いこと言った?

ナルタン
ちがうよ・・・お姉さんが悪いんじゃないよ・・・。

お姉さん
ナルタン、今度は泣いてる・・・。

ナルタン
さっき、寝たきりになっているのに家で病気とたたかって
いる人を見たでしょ。

お姉さん
あ、そういえば、さっき「病院を追い出される」って言っ
てたわね。それと関係あるの?

ナルタン
大ありさ!
たいていの患者さんは、『もの忘れ』や『幻覚症状』等の
原因が分からず入院するんだけど、原因がヤコブ病だと分
かると、『接触しただけでも感染するコワーイ病気だ』と
カンちがいして病院の対応が変わるんだよ。

おじさん
そう、お医者さんや看護婦さんに知識がなくて、患者に触
るのを拒んだり、
「他の患者さんにうつるから・・・」
とわざわざ 個室に入れて差額ベッド代をとったりした病
院があるんだ。

お姉さん
「差額ベッド」って、いくらくらいなの?

ナルタン
病院によってちがうけど、1日につき35.000円とっていた
ところもあるんだ。

お姉さん
えぇっ? それじゃ、一ヶ月に100万円以上だわ!それで
なくても他にも経費はかかるのに・・・。

ナルタン
転院先もないのに退院しろと迫ったり、精神科に回されて
鉄格子のある部屋に入れられたり、なんてことも多くあっ
たんだ。

おじさん
そう、残念ながらそれいう話は珍しくないね。
医療の専門家でもそんな人がいるくらいだから、一般の、
周囲の人にもひどい人がいて、家族ぐるみで差別されたり
勤め先をやめさせられたり、なんてことさえあるんだ。
亡くなったあと、火葬場の人に「うつるから早く焼きたい
」と言われたりね・・・。

お姉さん
ひっど〜い! いじめだわ! 被害にあった人は、病気だ
けでもつらいのに・・・。

ナルタン
そうさ! このごろになって、ようやくマスコミでも報道
されるようになったけれど、それでもまだこんな人がいる
! みんな、ちゃんとニュースに注目してほしいよね!

お姉さん
ほんと、そうよね!

ナルタン
で、さっきの病院の話に戻るけど・・・・。
病院の経営って、ほとんどが医療保険からの支払いによっ
て成り立っているんだ。
つまり、なんらかの「厚生省が認めた医療行為」をするこ
とで保険の「点数」を請求し、医療保険のおおもとから支
払われるお金で収入を得ているんだ。
もちろん、患者さんからもらう分もあるけど、それはほん
のひとにぎり。

お姉さん
あとはほとんど、私たちが毎月払う保険料が資金になって
いるんでしょ。

ナルタン
そうさ。

おじさん
でも、ヤコブ病には根本的な治療法がない。
つまり、「保険で認められる薬や医療行為」は限られてい
るので儲けにならない。
しかも、患者がいることでベッドがふさがり、お金になる
患者を受け入れられない。

それと、今の医療制度では3ヶ月以上入院していると支払
われる保険料が減って病院はもうからないんだ。
だから、どんな病人も3ヶ月たつと転院を迫られる。

ナルタン
ライオデュラを使って、病気を感染させた病院でさえ「例
外」として入院生活を続けさせてはもらえなかったね・・
・。

お姉さん
ひっど〜〜い! 頭にきちゃうわ!

おじさん
病院の対応についてはひどい話はまだまだあるよ。

前田直幸さん
先生、半年前から高熱が出て、寝汗をびっしょりかく日が
続いているんです。頭痛や耳鳴りも起きます。
最近では首が震えて止まらなくなってしまうんです。

医師
だが、調べてみても異常はなかったよ。
精神科に行ったらどうだね?

直幸さん
せ、精神科・・・?

(となりの部屋で)
医師・看護婦
何あれ? 見たこともないね。 治らないね。

お姉さん
ひどい! それが医者のセリフ? 原因もわからず診断が
つかないからって・・・。

直幸さんの母親
しかたがない、ほかの病院に行ってみましょう。

おじさん
そうして前田さん親子はいろんな病院を何軒もまわったん
だ。だが、どこへ行っても「異常なし」「精神科に行きな
さい」と言われてしまった。
そのうち、耳が聞こえにくくなり、目もまぶしくなったり
したんだけれど・・・。

お姉さん
お医者さんは何て言ったの?

ナルタン
「どこも悪くない」「甘ったれ病だ」と言った挙げ句、ま
るで直幸さんが悪いことをしているようなひどい言いがか
りをつけてきた医者がいるんだ。
実際にそんなことをしているかなんて、尿検査でかんたん
に調べられるのにね。

お姉さん
許せない!!
正確な診断ができない自分の不勉強を棚に上げて、弱りき
っている患者さんやご家族に対してこんな暴言を吐くなん
て・・・!!

ナルタン
そして直幸さんが痛さやつらさを紛らわすためにお酒を飲
むようになったら、「アルコール中毒だ」とうわさを流さ
れて・・・。

お姉さん
ひどい! ひどすぎるわ!!

ナルタン
お姉さん、泣かないで・・・。ぼくもまた泣きたくなっち
ゃうよ・・・。

おじさん
おいおい、ふたりとも、気持ちはわかるけど、それじゃ説
明が先に進まないよ〜。

お姉さん・ナルタン
そんなこと言ったって・・・。うえ〜ん!!(号泣)

おじさん
弱ったなぁ・・・。
そ、そうだ! さっきからみんな「ヤコブ病」って言って
いるけれど、これって正しくは「クロイツフェルト・ヤコ
ブ病(CJD)だって言うことは知っているかな?
1920年にクロイツフェルトさんが、1921年にヤコブさんが
、それぞれ独自に症例を報告したことからこの名前がつい
たんだ。

お姉さん
そうなの・・・。
後に発表したヤコブさんの方が有名になっちゃったわね。
やっぱり、名前は短い方が覚えやすいからよね・・・。

ナルタン
そうだろうね。

おじさん
あと、「薬害」って言っているけれど、「人工硬膜」は日
本では「医薬品ではない」という扱いなんだ。(注)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
●薬の定義は『生体に作用する化学物質』です。
だから当然、ライオデュラは薬なのですが、輸入許可を申
請した山本商会は薬輸入のライセンスをもっていなかった
ため、厚生省の技官と結託して『医療器具』として許可を
もらったのです。

<ライオデュラは薬ですか?>
日本では医薬品ではないが海外では医薬品になっています

医療行為で感染する病気は医学では医原性といいます。
薬害というのは社会的用語で厚生省に対する批判の意味が
込められているのです。
外国ではヒト乾燥硬膜は薬の分類に入っているし、広義の
薬だということとメーカーと国とが加害者であるという点
で薬害と呼んでいます。

●間違って、医療器具の範疇に入っているため、医薬品の
副作用で被害が出た人を救済する医薬品副作用機構法によ
る救済も受けられないのです。
ちょつと法律の解釈を変えれば救済されるのに、それをし
ないのは厚生省の怠慢です。

●しかし、副作用というのは「薬の効果はあるが、たまに
は人により悪い症状が出てくるもの」です。
ライオデュラは「使わなくてもよい薬」、効果が100パ
ーセントある人と100パーセント害で死ぬ人がいます。
こういうのは副作用とは言いません。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「医療材料」っていうものに分類される。包帯やばんそう
こうなんかと同じ扱いだね。
だから、「医原性ヤコブ病」と言う方が正確なんだ。
報道も注意して見ていると、「薬害」という言い方を避け
ている場合も多いよ。

お姉さん
ふうん。でも、「薬害」の方がピンとくるわ。
薬害エイズとかもあったし・・・。

ナルタン
そうそう、ヤコブ病は「第二の薬害エイズ」と呼ばれるほ
ど共通点が多いんだ。

お姉さん
例えばどんな?

ナルタン
それを説明するには・・・。
次、行くよ。 ナ〜ルタン!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お姉さん
ここはどこ? 暗くてよく見えないわ。 外国みたいだけ
ど・・・。

ナルタン
ここは1980年代のドイツ。ある市立病院の地下、職員専用
の駐車場さ。
葬儀社の霊きゅう車が何台か止まっているだろ。病院で亡
くなった患者さんを解剖したあと、運び出されるのを待っ
ているんだ。

お姉さん
あら、白い車が入ってきたわ。・・・ちょっと太めの男の
人が降りてきた! あら、ドアを開けたわ。

ナルタン
中は、遺体を運び出す準備をする部屋なんだ。あ、人が出
てきた! この病院の職員だよ。

小太りの男
品物を受け取りに参りました。

職員
はい、ごくろうさん。
今回は硬膜が40枚。一枚30マルクだから、全部で1200
マルクね。

小太りの男
さようなら、また近いうちにお会いしましょう。

お姉さん
ナルタン、今のって、ひょっとして・・・。

ナルタン
そう、密売さ。ドイツの国内ではいたるところで、こうし
た死体組織がこっそりと、大量に売りさばかれていたんだ

あの職員は解剖助手。1994年になってから、B・ブラウン
社に硬膜を引き渡したと白状したんだ。

お姉さん
「B・ブラウン社」?

ナルタン
ライオデュラを作っていたドイツの会社さ。
メルズンゲンていうところにある、世界でも有数の医療用
具メーカーなんだ。
さっきも言ったけど、B・ブラウン社は、原料を人の死体
から取り出していた。
そして、安い値段で作るために、どこでどんな原因で死ん
だのかも分からないような行き倒れの人の硬膜を、不法な
ヤミ取引きでかき集めていたんだ。

お姉さん
まあ、いい加減ね!!

おじさん
硬膜に限らず人間の身体からとったものを移植に使う場合
は、何の異常もないことを確認して、きちんと滅菌してか
ら使うべきものなんだ。
でもこのブラックマーケットでは、当然のことながらそう
したチェックはなかった。
しかも、こんなひどい衛生状態の中で取引されていたこと
をB・ブラウン社は知っていたんだ。

お姉さん
新聞には、「ドナーが特定できない」って書いてあったけ
ど、これってどういう意味?

ナルタン
「ドナー」は臓器の提供者という意味。それがわからない
てことさ!
本当はどこの誰から取った臓器か、そしてどんな病気で亡
くなったか、臓器に何か問題はないかきちんと確かめて、
製品を作ったら「リスト」を作らないといけないのに・・


お姉さん
作っていなかったの?

ナルタン
じゃ、闇取り引きがあった病院に行って、聞いてみようか
! ナ〜ルタン!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ナルタン
ここは1994年、ベルリン州立ベルショー病院の院長室。
あの人は、ここの院長のエッカルト・ケットゲンさん。

(電話が鳴る)

ケットゲン
はい、もしもし。

電話の声
こちらはベルリンの厚生省の者だ。じつはおたくの病院で
、硬膜の闇取り引きがあったという情報があったのだが・
・・。

ケットゲン
え? 何かのまちがいでは?
うちの病院では1985年からそうしたことを禁止しておりま
す。

電話の声
しかし、検察庁の情報によると、この病院から3000以上の
硬膜がB・ブラウン社に渡っていたことになるのだが・・
・。

ケットゲン
そんな・・・。
第一、まともな企業が闇取り引きをするなんてとても信じ
られません。
・・・分かりました。とにかく、B・ブラウン社に連絡を
とってみます。

おじさん
しかし、話し合いはうまくいかなかった。
そしてその後、この病院の解剖助手がB・ブラウン社の社
員からわいろを受け取っていたことが分かったんだ。

ケットゲン
き、君は・・・なんてことをしてくれたんだ・・・!
ク、クビだ! 今すぐここを辞めろ〜〜!!

おじさん
そしてケットゲン氏は、B・ブラウン社に対して硬膜の購
入リストを見せるように再三要求した。

お姉さん
それで・・・?

ケットゲン
しばらくしてリストは提出されたのですが・・・。
それはひどいものでした。
リストはひんぱんに改ざんされていて、この病院に対する
記録にほかの病院から買った硬膜が記録されているなど、
とてもいい加減でした。
死亡診断も、まともにされているものは一切ありません。
例えば、89才のおばあさんの死因が「流産」になってい
たのです。

お姉さん
まあ、あっきれた!

ナルタン
そんな感じで、大変な感染症で亡くなった人でも診断をせ
ずに違法な形で硬膜を取られてB・ブラウン社に渡ったと
いうことさ。
しかもそれは、1960年代から続いていたんだ。

お姉さん
でも、さっき、ヤコブ病の発生率は低くて、100万人にひ
とりって言ってたけど・・・?

ナルタン
そうなんだ! だから、そんな病気にかかっている人はも
ともと多くはなかった。
ところがB・ブラウン社は、たくさんの死体から取った硬
膜をいっしょに混合して処理していたものだから、ほかの
硬膜もみんな汚染されてしまったんだ・・・。

お姉さん
処理って・・?

ナルタン
たくさんの死体硬膜を一緒のおけで洗い、600枚の硬膜を
ひとつのポリ袋に入れて保管していたんだ。

お姉さん
でもナルタン、そんな場合でも、滅菌消毒をすれば大丈夫
なんじゃないの?

ナルタン
プリオンっていうたんぱく質はやっかいでね・・・。高温
で長い時間グツグツ煮ても、冷凍しても、「コバルト60」
が発する?(ガンマ)線という放射線を浴びせても死なな
いんだ・・・。

おじさん
おっとナルタン、たんぱく質は生き物じゃないから、「死
ぬ」じゃなくて「不活性化」と言うのが正しいね。
B・ブラウン社は、この効果のない?線で処理していたも
のだから、ぜんぜん意味がなかったんだ。

お姉さん
いつまでそんなことをしていたの?

ナルタン
1987年にあることが起きてから、ようやく「132度の加熱
とアルカリ処理」という有効な方法がとられるようになっ
たんだけど、驚いたことにそのあと2年間も危険な製品を
回収しなかったんだ。

お姉さん
つまり、売り続けたってこと? 悪どいわね!
ところで「あること」って何?
それから、日本での動きはどうだったの?
日本では患者さんが世界一多いって聞いたけど・・・。

ナルタン
じゃ、日本へ行ってみようか。 ナ〜ルタン!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お姉さん
ここはいつの日本?

ナルタン
1973年7月、ここは厚生省。
医薬品や、医療用具を日本で販売して良いか、許可を出す
お役所だね。
そして許可を出したあと、何らかの問題が生じた場合は、
回収したり使用禁止にするなどの処置をしなければならな
い機関だ。

お姉さん
あの男の人は?

ナルタン
当時の「日本ビーエスエス社」の社長で、山本和雄という
人物さ。今は息子が会社を引き継いでいるけどね。
この人がライオデュラを「医療器具」として日本に持ち込
んで、販売の許可を求めにきたんだ。
そして、あえなく承認となったわけ。

お姉さん
この頃はまだ、危険性はわからなかったわけね。

おじさん
でも移植に使う製品で、人の死体からとったものを使うな
んてことは「はじめて」だったんだ。
当然もっと慎重になるべきだったのに、なんと簡単な書類
審査のみで、現場の担当者ひとりだけで決めてしまった。
アメリカではこういう場合、最低でも10人くらいのグル
ープで検討するのにね。

お姉さん
たしかにいい加減ね。
でも、日本で使用禁止になったのは1997年でしょ?
それまで本当に危ないってわからなかったの?

ナルタン
厚生省は、なにも知らなかったわけじゃないよ。
1974年からヤコブ病が移植で伝染するってことがあちこち
から報告されたんだ。
それで、1976年、「スローウイルス研究班」っていうのを
厚生省内に作って、ヤコブ病の研究をさせたんだよ。

お姉さん
「スローウイルス」って何?

ナルタン
当時は、原因はウイルスだと考えられていたんだ。感染し
てから症状が出るまで何年もかかるから「遅発性ウイルス
」、つまり「スローウイルス」さ。

お姉さん
ふうん。でも、えらいじゃない。そんなに早くからちゃん
と研究していたんだ。
なのにそれが活かされなかったのはなぜ?
その研究からは何も分からなかったの?

ナルタン
そうじゃないよ。
1978年には動物実験で、ヤコブ病はうつる病気だってこと
がわかったんだ。
そして、「患者からとった器官および組織は、移植しては
いけない」という警告がなされたんだ。
さらに1980年、「ヤコブ病は患者の脳に直接ふれることに
よってのみうつるので、厳重に注意」と呼びかけたりもし
たんだ。

お姉さん
つまり「移植すればうつるから注意しろ」ってことね。
それを厚生省は無視したの?

ナルタン
信じられないけれど、そういうことさ・・・。
その後何度も、海外の有名な学会で危険性が発表されて、
そのつど医学雑誌にも掲載されて、しかも厚生省の薬務局
安全課や生物製剤課にはそれらの本が届いていたんだけれ
どね・・・。

お姉さん
そんな重大なニュースに誰も反応しなかったなんて、驚い
ちゃうわ!
そのあいだに、どんどんライオデュラが移植されてしまっ
たというわけね!

おじさん
そう。でも、1978年には、?線滅菌ではヤコブ病の病原体
をやっつけられないということが明らかになったんだ。
この報告を有名な医学雑誌に発表したガイジュセックさん
は、後にノーベル賞を授賞したんだよ。
でも厚生省は、これらの文献を無視したんだ。

お姉さん
外国ではどうだったの?
さっき、「1987年にあることが起きて・・・」って言って
いたけど。

ナルタン
そうそう、それまでにも度々世界中でヤコブ病の原因や感
染性に関する報告はされていたんだけどね。
決定的だったのは1987年のことさ!
2月に、アメリカの疾病対策予防センター(CDC)が、
ライオデュラ移植後にヤコブ病で死亡した症例を報告した
んだ。

お姉さん
CDCって、前に聞いたことがあるわ・・。

ナルタン
世界でもトップクラスといえるほど有名で、エイズのとき
なども早い時点で警鐘を鳴らした公立の機関だね。
世界中の医療に関係する人たちが、ここの週間レポートに
注目している。
もちろんこのヤコブ病のことも全世界に流された。

お姉さん
へぇ〜! それでそれで?

ナルタン
4月、やはりアメリカの食品医薬品局(FDA)が、汚染
されたライオデュラのすべてを処分するよう勧告を出した
んだ。

お姉さん
FDAって?

ナルタン
日本でいうと厚生省さ。
そして5月、B・ブラウン社はやっと滅菌方法を変えたん
だ。
でも6月、FDAは、ライオデュラの輸入を全面的に禁止
した。新しい処理方法も危険だと判断したからだね。

お姉さん
日本の厚生省はそれを知らなかったの?

ナルタン
そんなはずはぜったいにない!
この情報は、当然日本の厚生省にも入ってきたさ!
JAMAという雑誌の日本語版にその記事が紹介されたん
だから。
また、日本人北村敬という人が「臨床とウイルス」という
雑誌でMMWR(アメリカの権威ある週報)の記事を紹介
した。
     
おじさん
そこには「B・ブラウン社はたくさんの硬膜をごちゃまぜ
にして処理している」、つまり病気がうつりやすいやり方
をしていることが書いてあったんだ。

お姉さん
まぁ! それじゃ「知らなかった」とは言わせないわね!

ナルタン
そう。でも厚生省は何もしなかったんだ。
しかもそのあと、1991年に新潟で同様の症例が発表されて
からも・・・。

お姉さん
「同様の」って?

ナルタン
1984年3月に移植手術を受けてから約3年後にヤコブ病を
発症した26才の女性患者さんについてさ。
しかもそのあとしばらく、死体硬膜の移植を受けた人の報
告があいつぎ、スローウイルス研究班の人も「危険ですよ
」って厚生省の人に言ったのに・・・・。

お姉さん
厚生省は何もせず、ライオデュラを放置したっていうわけ
ね。
そのあいだに多くの罪のない人が感染させられてしまった
のね・・・。やりきれないわ。

ナルタン
そして1996年、大津で訴訟が提訴され、1997年3月、WH
Oがライオデュラを使わないように緊急勧告を出してやっ
と、使用禁止の命令を発したんだ・・・。

お姉さん
遅い! 遅すぎるわ! アメリカより対応が10年も遅れ
ているじゃない!!
だから日本は世界でいちばん被害者が多くなっちゃったの
ね! いったい被害者は何人いるの?

ナルタン
2001年4月現在、75人と言われている。
でも・・・。

お姉さん
でも、何?

ナルタン
ライオデュラが使われていた当時、日本国内では年間平均
2万枚の乾燥硬膜が使われていたんだ。
と言っても、ライオデュラ以外の製品も出回っていたから
、すべてが危険っていうわけじゃないんだけどね。
1973年から 1997年までの間に40〜50万枚のライオデ
ュラが使われていたらしいよ。

お姉さん
はっきりしないの?

おじさん
何しろ病院のカルテ保存の義務がある期間は5年だからね
。それより前に手術を受けていたら、どんなものが使われ
ていたか手がかりがないんだ。
わかっているのは、ライオデュラを使われた人のうち「数
千人にひとり」がすでに病気になっているってこと。
ふつうは「百万人にひとり」であることを考えると、異常
なほど高い確率だ。

お姉さん
じゃあ、むかし脳の手術を受けた人はみんな安心できない
ってこと?

ナルタン
う〜ん、他の製品が使われたってことがはっきり分かれば
別だけれどね。
何しろ感染してから発症するまで30年かかる例もあるく
らいだから・・・。

お姉さん
恐いわ・・・。
ねぇ、ところで、そのライオデュラって、脳の手術をした
ら必ず使わなければならないものだったの?

ナルタン
そんなことはないんだ。
患者さん自身のほかの身体の部分、例えば太ももの筋肉な
どを使って手術は行われていたし、シリコンなどを原料と
した人工の硬膜も使われていたんだ。
乾燥硬膜が禁止になった現在では、厚生省はテフロンを加
工した製品を勧めているね。

お姉さん
じゃあ、病気にかかる危険をしょってまでライオデュラを
使う必要はなかったのね! よけい悔しいわ!!
でもなぜ日本ではライオデュラばかりがたくさん使われた
のかしら?

ナルタン
ほかの製品にくらべて丈夫で周りの組織に吸収されやすい
っていう利点はあるけれど、なによりライオデュラを使う
と病院の「もうけ」が大きかったっていうのが最大の理由
だね。

お姉さん
あ、安く仕入れて高く売る・・・じゃなくて保険請求でき
るっていう、お薬で言うところの薬価差益みたいなこと?

ナルタン
そうそう、ちょうど一万円札くらいの大きさで請求できる
価格が118.800円だったものだから、「10万円札」って
呼ばれていたんだ。それが5〜6万円で仕入れられるから
、たくさんもうかる。
しかも、それを細かく切って、数回の手術に使っても、
それぞれ一枚使ったことにして請求できたんだ。
そんなわけで使う数は年々増え、約20年間で40〜50
万人に使われた可能性があるってわけさ・・・。

お姉さん
人の命より利益優先か・・・。
なんだか薬害エイズのときと同じね。

ナルタン
あのときは、安全な加熱製剤が認可されて、非加熱製剤に
回収命令が出なかったのをいいことに、余った在庫をうん
と安く売ったんだよね・・・。

お姉さん
あ、そう言えば薬害エイズのときも、たくさんの血液を混
ぜて製品を作ったために、被害が広がってしまったんだわ
よね!
それから、アメリカで警告や回収・使用禁止の命令が出さ
れても日本は何もしなかったってことまでいっしょだわ!

ナルタン
よく気がついたね!
そのほかに、「それ以外の製品を使う方法もあったのに・・・」というのもあるね!

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(後編へつづく)

□リンク□

薬害ヤコブ病ホームページ
薬害CJD訴訟を支える会

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